金剛峯寺からの

お知らせ

高野山真言宗からのお知らせ

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    2021.07.01

    「核兵器禁止条約」についての宗務総長声明

      標記の件につきまして、1月22日の条約発効より半年ほど遅ればせながらではありますが、高野山真言宗宗団として歓迎の意を表しますと共に、核兵器の廃絶に向けた取り組みがますます拡がり、前進していくことを願って、このたび宗務総長名にて声明を公表いたします。

    核なき世界を実現し生きとし生けるものに平和を

    ―核兵器禁止条約の成立と発効を歓迎する―

     

      国連において2017年7月に採択され成立した核兵器禁止条約が、本年1月22日、発効要件を満たして正式に発効しました。

      核兵器禁止条約は、日本の被爆者の皆さんが、戦後75年にわたって、原爆によってもたらされた様々な苦難に耐えつつ核兵器の非人道性を訴え、その実現を強く求め続けてこられたものでした。その声は世界の多くの人々の心に届き、核のない世界を実現しようという大きなうねりを巻き起こしたのです。

      この条約は、核兵器そのものを非人道的で違法とし、あらゆる核兵器の開発、実験、生産、保有、使用を許さず、核による威嚇をも禁じています。非締約国を拘束するものではありませんが、史上初めて国際法によって核兵器が違法とされたことの意味は重く、核廃絶に向けて現実的な展望を開く大きな一歩を踏み出したといえます。

      しかし一方、核兵器保有国及び日本を含むその同盟国は、依然として「抑止力」として核を維持し続ける姿勢を崩していません。世界には現在もまだ13,400発もの核爆弾が保有されています。これらをなくすには、核兵器禁止条約を足がかりとして、核廃絶を求める声をいっそう大きく広げなければなりません。

      核「抑止力」論は、実際に敵側の国民の頭上で核爆弾を炸裂させ、数十万、数百万人を殺戮すること、つまり、ヒロシマ、ナガサキの惨禍を繰り返してもいいと認めることを前提に初めて成り立つ理論であり、人道上、倫理上到底許容できるものではありません。

      唯一の戦争被爆国である日本は、「究極的な目標としての核兵器廃絶」を掲げてはいますが、核「抑止力」論を保持し、核兵器禁止条約には参加していません。私たちは、日本政府が核保有国と非保有国の間の橋渡しをし、今後の核廃絶への歩みを進めるためにも、条約締約国会議にまずオブザーバーとして参加することを望みます。

      宗祖弘法大師は、「よく衆生のために多く利事を求め、施作するところあれば兵仗を用いず、法をもって治下して天下安楽なり。外には敵国の畏れなく、内には陰謀の畏れなし。」(『十住心論』)として平和のうちに世を治めることを第一とされ、「虚空尽き、衆生尽き、涅槃尽きなば、我が願ひも尽きむ。」(『性霊集』)と述べて、一切の衆生があらゆる苦から逃れて安楽を得ることを永遠の願いとされました。核戦争の犠牲となること、戦火による惨禍を受けることは、元来回避可能な人為的な苦であり、これらから人のみならずすべての命を守ることは、もとより大師の願いの根底にあると思われます。

      私たちは、この世のいのちがみな平等でつながっており、一つひとつが大切にされることを願う「生かせ いのち」の理念のもと、核兵器禁止条約の成立と発効を歓迎するとともに、核兵器の全面的な廃絶が実現し、世界に恒久的な平和がもたらされることを心から願うものです。

    2021年 6月 1日

    高野山真言宗 宗務総長 添田 隆昭

     

    「核兵器禁止条約」についての宗務総長声明(PDF)